僕が映写技師をしていた頃の話。

ぼくは学生時代、映写技師のアルバイトをしていました。(アイキャッチ画像は当初の同僚たちです)

外気温と映写機から放たれる熱が、冷房が必死に温度を下げる行為をひたすらに邪魔している夜だった。当時はまだフィルム上映とデジタル上映の普及率が半々くらいで、僕のアルバイト先のシネコンは地方ということもあり、9スクリーンの内、デジタル上映を行なっていたのは1スクリーンだけであった。上映が全て終わり映写機の放熱音だけが響く中、ある作業が始まった。フィルム上映作品の業務試写だ。デジタル上映作品と違い、フィルム上映作品は全編を映写機にかけて流してみなければ、フィルム上の傷等上映に支障を与える原因が発見できないのだ。だから、店仕舞いした後のスクリーンで映写技師が試写を行う。基本的に、一人が映写室で上映し、フィルムが回り始め問題なく本編に入れば先に帰宅する。館内の客席にはもう一人の映写技師が居て、全編をチェックした後、業務試写に使った映写機を片付けてレポートを書き、深夜の1時~2時頃ようやく帰路につける。

その日の試写担当は僕だった。お客さんが全て出払った館内の一番いい席に座り、インカムで映写室に連絡を入れる。先輩であるベテラン映写技師さんがスタートします、と告げた後キセノンランプがスクリーンを明るく照らし出し、予告編が始まる。画角が調整された後、盗撮防止映像が流れ本編に突入した。スクリーンに赤い文字で映ったのは、次の週に公開を控えていた人気ホラー映画の続編タイトルだった。僕はホラー映画は苦手だが、お金を貰って仕事をしている以上、いい加減な業務試写はできない。画面上に映る小さなフィルム傷にも注意しなければならない。本編に入った旨を映写室に残るベテラン映写技師さんにインカムで連絡を入れると、なぜか途切れ途切れではあるがお先に帰りますと聞こえた気がしたのでお疲れ様ですと短く返事をして業務に移った。

上映時間は約1時間半と短く、巻と巻のつなぎ目の目印であるチェンジマークをスクリーン上で5回確認すれば終わりである。僕は苦痛を感じつつも、なんとか業務試写を乗り切った。途中何度か、キセノンランプが不安定になり画面がちらつく現象が起きたがフィルムの問題ではないため、レポートには書かず、業務終了後に映写機のランプの寿命を調べる事にした。消火栓の赤いライトだけが何の迷いもなく光り続けている劇場内の廊下を抜け、映写室へと戻った。業務試写に使った映写機を片付け、最後にランプのチェックを行った。いつからランプを使い始めているかを、どの従業員にもわかるようにA4の管理表が映写機に貼られているのだが、その映写機のランプはつい先日交換を行ったばかりであった。不審に思った僕は、映写機の電源を再度入れ、フィルムをかけずにランプを点灯した。映写窓から館内を眺めると、光はずっと安定していたが、念の為5分間程点けっぱなしにして様子を見ることにした。映写窓に反射する僕の顔は疲れており今にも眠りこけてしまいそうな顔をしていて、それは明らかに慣れないホラー映画の強制鑑賞が原因だった。

手元のストップウォッチが午前2時少し前の時刻を表示した時、僕は特に異常が無いと判断し、ランプの電源を落とした。全ての作業を終えて、ふと横を向き、映写窓を見るとそこに写る僕の顔の横に薄ら青い顔をした男が写っていた。

思わず悲鳴を挙げて、その場から走り去った。

 

翌日、深夜の恐ろしい出来事を先輩に話すと、耳に入れるのも恐ろしい話が返ってきた。

「戦時中、この映画館がある場所に日本軍の医療施設があったんだ。戦場にも戻ることができない程傷ついた兵士が、少ない医療物資の中ひたすら息絶えるまで苦しむ施設。戦後、施設自体は焼き払われたらしいけど、火が放たれた時まだ建物の中には身動きも出来ず身元確認も終わっていない兵士が何人も放置されていたらしい。それで、大量の恨みを持った死者が出たんだ」

僕はその話を聞くと、身体中の温もりが全て奪われた気分になった。丁度その話をしてくれた先輩とシフト交代で出勤してきたベテラン映写技師さんが、僕の顔を見るなり苦笑いでこう言った。

「昨日作業しがてら試写が終わるのを待ってたのに、〇〇君急に叫び声挙げて帰っちゃうんだからビックリしたよ」

気付けば僕は先輩を軽く小突いていた。




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itotty

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